1. 結論から

白石みなと(補助金活用アドバイザー)
人に関わる助成金の多くは、対象になる制度を「就業規則などの文書に定めていること」を
要件にしています。社内で実際にその制度を運用していても、それだけでは足りない
場合があります。規則として書面に残し、労働者数によっては労働基準監督署へ届け出て
いることまで確認されるためです。

福田(聞き手)
「もうやっているのに」という声をよく聞きます。運用実績があるのに、なぜ規則の有無まで
見られるのでしょうか。

白石みなと(補助金活用アドバイザー)
そこを、順を追ってお話しします。
2. なぜ「就業規則に定めていること」が要件になるのか

福田(聞き手)
そもそも、助成金の審査でなぜ就業規則の中身まで確認されるのでしょうか。

白石みなと(補助金活用アドバイザー)
助成金の多くは、賃金や労働時間の扱い、休暇制度、資格手当といった「労働条件に関わる
制度」を作ったり整えたりしたことに対して支給されます。労働条件は、口約束や
その場の運用ではなく、就業規則という文書に定めて初めて会社のルールとして確定する
という考え方が土台にあります。運用しているだけの状態では、その制度がいつでも
変更・撤回できてしまい、労働者にとっての権利として固まっていないとみなされます。
助成金は「制度化されたもの」に対して支給される、という理解が出発点です。
3. 「運用している」だけでは足りないのはなぜか

福田(聞き手)
実際に手当を払っている、休暇を取らせている、という事実があれば、それで十分では
ないのでしょうか。

白石みなと(補助金活用アドバイザー)
実務の運用と、規則への明記は、審査では別の話として扱われます。運用は「今そうして
いる」という事実にすぎず、規則は「今後もそうする」という会社の約束だからです。
審査する側は、運用実績だけでなく、それが規則としてどこに、どう書いてあるかを
確認します。就業規則の本則、あるいは別に定める賃金規程・休暇規程など、どの文書の
どの条文に該当の制度が書いてあるかを、申請の段階で示せるようにしておく必要が
あります。
4. 労働者数によって、作成・届出の義務そのものが変わる

福田(聞き手)
就業規則自体を作らなければいけない会社と、そうでない会社があると聞きました。

白石みなと(補助金活用アドバイザー)
はい。労働基準法では、常時10人以上の労働者を使用する事業場に、就業規則の作成と
労働基準監督署への届出を義務付けています。それより少ない事業場には、就業規則を
作成・届出する法律上の義務そのものがありません。
ここで注意が必要なのは、助成金の要件は、この法律上の義務とは別に定められている
場合があるという点です。労働者数が少なく届出義務が無い会社であっても、助成金を
使うために就業規則の整備を求められることがあります。逆に、届出義務がある会社が
未整備のまま制度だけ運用していると、義務違反と助成金要件の不備が同時に問題になり
ます。自社が届出義務のある規模かどうかを確認したうえで、助成金側の要件を別途
確認する、という二段構えで見ていく必要があります。
5. 届出済みの写しの提出を求められる理由

福田(聞き手)
「就業規則を届け出た証拠まで出してほしい」と言われることもあるそうですね。

白石みなと(補助金活用アドバイザー)
そうです。単に規則を作っただけでなく、労働基準監督署に届け出て受理されたことを
示す写しの提出を求める助成金があります。受付印や受理の記録が入った状態の控えを
求められることが多く、社内で保管している下書きや案の段階のものでは足りません。
これは、規則が「会社の中だけで作られたもの」ではなく、労働基準監督署という外部
機関の手続きを経て確定したものであることを確認するためです。届出そのものは
郵送や電子申請でもできますが、控えを手元に残しておかないと、いざ助成金を申請する
段になって取り直しが必要になることがあります。
6. 規則を変えた日付と、制度を使い始めた日付の前後関係

福田(聞き手)
規則を直したタイミングと、制度を使い始めたタイミングの順番まで見られると聞いて
驚きました。

白石みなと(補助金活用アドバイザー)
はい。多くの助成金は、規則の変更・届出が先にあり、その後に制度の運用を始めた、
という前後関係を確認します。先に制度を使い始めてから、あとづけで規則を整えた
場合、審査上は「規則に基づく運用」ではなく「規則の無い状態での運用」だったと
みなされることがあります。
これから制度を整備して助成金を使おうと考えている場合は、規則の変更・届出を
終えてから、実際の運用を始めるという順番を守ることが重要です。既に運用を
始めてしまっている場合は、どの助成金がどの時点の前後関係を求めているか、
公募要領や支給要領の記載を確認する必要があります。
7. 労働協約・労使協定で足りる場合、就業規則が要る場合

福田(聞き手)
就業規則ではなく、労使協定で足りることもあるのでしょうか。

白石みなと(補助金活用アドバイザー)
あります。助成金によっては、就業規則そのものではなく、労働協約や労使協定に
制度を定めることで要件を満たせる場合があります。労働協約は労働組合と会社の
間で結ぶもの、労使協定は労働者の過半数を代表する者と会社の間で結ぶもので、
どちらも就業規則とは異なる位置づけの文書です。
どちらで足りるかは、助成金ごと、対象になる制度ごとに異なります。同じ「賃金に
関わる制度」であっても、就業規則への明記を求めるものと、労使協定で足りるものが
混在しています。就業規則の変更には周知や意見聴取といった手続きが必要になる
場合もあるため、労使協定で足りるかどうかを先に確認しておくと、整備の手間を
抑えられることがあります。
8. 社内の実態と規則が食い違っていると何が起こるか

福田(聞き手)
規則を整えて届出も済ませれば、それで安心してよいのでしょうか。

白石みなと(補助金活用アドバイザー)
規則を整えることと、その規則どおりに社内が動いていることは、また別の話です。
規則には書いてあるのに実際の運用が違う、あるいは規則の条文と実態がずれている
状態だと、支給申請の段階で確認が止まることがあります。支給申請では、規則の
写しだけでなく、賃金台帳や出勤簿など実際の運用を示す資料もあわせて確認される
ためです。
たとえば、規則には「対象者全員に適用する」と書いてあるのに、実際には一部の
労働者にしか適用していない、というような食い違いです。規則を作ること自体が
ゴールではなく、規則どおりに運用されていることまでが確認の対象になる、
という前提で整備を進める必要があります。
よくある質問
Q1. 就業規則が無いと、助成金は一切使えませんか。
A. 制度や助成金の種類によります。就業規則ではなく労使協定で足りるものもあれば、
労働者数によっては就業規則自体の作成義務が無い会社を想定した扱いになっている
ものもあります。対象になり得るかどうかは、それぞれの助成金の要件を個別に
確認する必要があります。
Q2. 就業規則の変更は、社会保険労務士に頼まないとできませんか。
A. 就業規則の作成・変更・届出は会社自身で行うこともできます。ただし、労働基準法
上の手続き(周知や意見聴取など)を伴う場合があり、助成金の要件に沿った条文の
作り方には専門的な判断が必要になることもあります。社会保険労務士や、最寄りの
労働局・ハローワークに相談先として案内を受けることも選択肢になり得ます。
Q3. 規則の届出をしてから、どのくらいで助成金の申請に進めますか。
A. 助成金ごとに、規則の変更・届出から制度の運用開始までの前後関係や、運用実績を
一定期間積んでから申請するといった条件が定められている場合があります。届出が
済んだからすぐに申請できるとは限らないため、対象の助成金の公募要領・支給要領で
順序と期間の条件を確認する必要があります。
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